可朝の手紙、オレの手紙(1/4ベアーズ公演に寄せて)

『可朝の手紙、オレの手紙』

11月24日 金曜日
渋谷のCBGKで三遊亭円丈『neo 実験落語』の特別ゲストに月亭可朝!ということで見に行く。
可朝師匠の高座はギター漫談。立って、黒いジャケット、一番上までボタンが留ってる白いシャツ、ブルージーンズで登場。多くの期待の中での漫談だったが、体調が良くないのか途中から足がよろけてしまい、遂には下に座ってしまい、そのまま漫談を。マイクから遠くなってしまったが、声は通った。最後は「また体調良くなって、来させてもらいます」と言って、舞台から去った。
イベント終演後、楽屋に挨拶を。椅子に座っていた可朝師匠は、僕が顔を見せると立ち上がった。足が調子悪いのに。こんなこと若い人からもあんまりされたことないのに。師匠はやはり、ちょっと元気なさそうだった。

11月25日 土曜日
四谷アウトブレイクで『真昼の四谷、可朝の会』。自分のハプニングレコードから出させて貰った『いってる北朝鮮 ep』とP-vineからのベスト盤のWレコ発。両作共、自分がプロデュースさせて貰ったのでレコ発も自分でやることに。
急遽この会は決まったのでフライヤーもまけず、正午開演ということでどうかなあと思ったが、満員御礼。楽屋には可朝師匠への差し入れが続々と。師匠の好きな関東の佃煮、あと、たい焼きやら。たい焼きは四谷名物のやたら美味しそうで師匠、皆で食べた。僕は主催者なので、それどころではなかったんだ。
鼎談は、編集者の都築響一さんの司会、自分も一応参加。昨日のCBGKとは違い、舞台と客席が近い上にギッシリと人が詰まった熱気で、可朝師匠も嬉しそうで鼎談なのに殆ど可朝独演会に(笑)。いや、でも都築さんがいてくれて雰囲気が良かったんだと思う。後で師匠も言っていた。「あの先生(都築さん)が喋らせてくれたんや」と。
余興の後、いよいよ月亭可朝ギター漫談。昨日の件を考慮して、ステージには椅子を置いて、そこで行われた。これはこれでかっこ良くて、ジョン・リー・フッカーみたく。本当にブルース・シンガーのような格好よさだった。この日はじめて見た人達から「可朝師匠すごいお洒落ですね」とよく言われた。多分、特別に高価なものを着ているわけではないけど、着こなしというか佇まいが洒脱で。やっぱり生き方からそのひとの見た目って来るんだなと。高価なブランド物着てるひとなんて、銀座や新宿に幾らでもいるけど、お洒落だなって思うひとなんて滅多にいない。ただ「着ている」だけで。
この日のギター漫談は前日のCBGKよりも、グッと迫力と軽妙さのバランスでたっぷりやってくれた。観客からも絶賛の声。何人かから「また師匠の会、やって下さい!」と言って貰えたりした。
終演、撤収して、可朝師匠はギター、たくさんの差し入れを持って、すぐタクシーで東京駅へ。

12月1日 金曜日
仕事から帰宅したら、可朝師匠から封書でお手紙が届いてる。お歳暮のお礼を葉書で頂いたことはあるが、封書は初めてで動揺する。思わず指で開封する。お手紙は便せん一枚にびっしりと。先日の四谷の会のお礼、そして、楽屋で誰かのお菓子の差し入れの袋を持って来てしまい、そのお詫びを丁寧に。この部分、自分には正確な判断は出来ないのだが、おそらく可朝師匠への差し入れと思われ、勘違いされてるのではないかな、とも。しかし師匠はその行為を大変恥じて、お菓子代として五千円札を同封して下さっている。そして、後半に、「近日、腰の痛み、筋肉の低下により立ち高座はしないようにしております。正月四日のなんばで予定しておりました可朝の出番ははずして下さいますようお願い申し上げます。また回復しましたら、お仲間に入れて下さいますようお願い致します」。
思わず、すぐ師匠に電話したが繋がらず。いや、それで良かった。ここで「本番、座っても大丈夫ですから、是非、出演して下さい」と言おうとしていた自分がいたが、それはプロの芸人さんに言う言葉ではなかったと、すぐ気づいて恥じた。
CBGKで足がよろけていたのを、とある関係者が「あれを笑いに変えることが出来なかったのが、、」なんとか言ってたが、そんな素人芸をやるために可朝師匠は舞台に上がっているわけではない。そんなところで笑いを取るのは、ちょっとした言い間違いやわざとらしいボケで笑いを取ってるテレビ芸人である。
八代目桂文楽は高座で噺の途中、台詞を忘れて「勉強をし直して参ります」と言って高座を下りて、それ以来二度と高座に上がらなかった。高座というのはそれくらい恐ろしい場所なのだ。これはもう十年程前だが、横浜のにぎわい座で立川談春が「九州吹き戻し」という一時間近い大ネタを掛けた時、途中で談春師匠の鼻水が出て来て止まらなくなった。客席もどよめきかけ、わ、どうするんだろ、、と思った矢先、談春師匠はさっと舞台の袖に走り、30秒程して、また何事もなかったように噺の続きを始めた。あれだけ機転が利くひとなのに、適当な笑いを取る事なんてせず、無骨なまでに噺を続けたことに高座、そしてプロの噺家の業の深さを目の当たりにした。
可朝師匠も座ってのギター漫談をやるのはたやすいが、それは本来の自分のフォームではないので、やるならやっぱり立ってやりたいのだろうと思う。今はそれが出来ないので、出演を辞退されたと思う。
イベントの完全キャンセルもちょっと考えたが、出演者がこれだけバラエティに揃うこともそうそうない。各出演者に可朝師匠は出れない旨伝えた上で、再調整して、2018年1月4日ベアーズに集まることになった。
可朝師匠のお手紙の最後の「また回復しましたら、お仲間に入れて下さいますようお願い致します」の「お仲間」はここにいる。本物の芸人、月亭可朝師匠の足腰の回復を祈りながら、この日、大いに楽しいイベントに出来たらと思います。

豊田道倫

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ハプニングレコードpresents 新春興行

『いってる北朝鮮 ep』『ザ・月亭可朝ベスト+新曲』CD発売記念イベント
可朝さんは来ないけれど、、、新春大放談付きスペシャルスリーマン

2018年1月4日(木)なんばベアーズ
出演:山本精一川本真琴豊田道倫
O.A:角矢胡桃 DJ:竹腰康広(oops! here I go again)

開場 15時半 開演 16時前売り予約 \3000 当日 \3500
予約メール:info@namba-bears.main,jp 電話:06-6649-5564